三都杯決勝大会。

ステージを終えたBefne・菱田宏哉の胸に残っていたのは、結果に対する悔しさだけではなかった。

「『賞』を取れへんかって、悔しかったっていうより」
そう話したあと、菱田さんは続ける。

「中途半端な気持ちが残って、悔しかったって感じの方が強いです」

目の前のモデルに向き合い、限られた時間のなかでデザインを完成させる。
そのステージで、自分が思い描いていたものを最後まで出し切れなかった。

結果ではなく、自分自身への悔しさ

決勝のステージでは、一瞬の判断が作品を変える。

菱田さんには、本番中に集中が途切れたと感じた瞬間があったという。
事前にステージの流れを考え、音楽に合わせて自分がどう動くかまで組み立てていた。

しかし、本番ではそのテンポにズレが生まれた。

「計算しすぎたのかもしれないです」

準備してきたからこそ、そのわずかなズレが自分のなかで大きくなっていく。

「そのテンポがズレて、自分の中で崩れたのかもしれないです」

ステージを終えて感じたのは、「もっとできた」という感覚だった。
だからこそ、今回の経験を単なる失敗では終わらせない。

「もっと勉強しないといけないところが、なんとなく分かって」
そして、

「その課題点を次に生かす」

菱田さんの視線は、すでに次へと向いている。

3人のモデルに重ねた、それぞれの夢

今回、菱田さんが決勝ステージで表現したテーマは、

「種火」。

ステージには3人のモデルが登場する。
菱田さんが注目したのは、彼女たちがそれぞれ自分の夢を追いかけ、日本に来ているという背景だった。

「3人ともその目標があって」

小さく生まれた思いが、やがて大きく広がっていく。
そんなイメージを、ひとつのステージとして表現したいと考えた。

ひとりの夢。

ひとりの決意。

まだ小さな炎かもしれない。
けれど、その小さな火が消えずに残り続ければ、いつか大きなものへと変わっていく。

そこから生まれたのが、「種火」というテーマだった。

自分のなかにある「反骨心」

菱田さんが今回の作品に込めたものは、モデルたちの物語だけではない。そこには、自分自身も重ねられている。

「自分の気持ちとか、反骨心とかで」

これまでデザインをつくるとき、自分のなかにある反骨心のようなものが力になることが多かったと話す。

その感覚が今回は、

「収まって」

そこから、

「新しいものを作りたいなっていうイメージでした」

何かに反発するだけではない。自分のなかにある感情を受け止め、そこから新しいものを生み出していく。

「種火」という言葉には、モデルたちが持つ夢だけではなく、菱田さん自身がこれから生み出していきたいものへの思いも込められていた。

三都杯だからこそ、技術と向き合う

完成した3人のモデルが並ぶ。

ヘアだけではなく、衣装、メイク、ステージ演出までを含めて、一つの世界がつくられている。しかし菱田さんは、自分自身の技術について決して満足していない。

「基本的にカットもそんな上手くないですし」

「センスもないって、分かってる人間なんで」

自分の現在地をそう捉えているからこそ、挑戦する。

上手くなりたい。

もっといいものをつくりたい。

自分に足りないものを知りたい。

三都杯という舞台は、その現在地を否応なく突きつけてくる場所でもある。

「上手くなれないし、良いものも創れないんで」

だから挑戦する。コンテストは、自分の実力を証明するためだけの場所ではない。自分に何が足りないのかを知り、それを次へつなげていく場所でもある。

コンテストに挑むことが「糧」になる

インタビューの終盤、テーマは「挑まない人へ、そしてこれからの自分へ」と移っていく。
菱田さんがまず目指しているのは、

「お客様に、価値を感じてもらえる美容師」。

そのために、コンテストにも挑戦し続けている。
サロンワークとコンテスト。一見すると別々のものに見えるかもしれない。

しかし、コンテストのために考え、技術を磨き、自分自身と向き合う時間は、日々の仕事にもつながっていく。

「それが糧になると思うんで」

結果だけが、コンテストの価値ではない。

そこへ向かうまでに考えたこと。

練習したこと。

失敗したこと。

悔しかったこと。

そのすべてが、美容師としての自分に蓄積されていく。

これからは、Befneを背負う存在へ

菱田さんの視線は、自分自身だけではなく、所属するBefneにも向いている。

「4月から、新店出されるんで」

環境が変わり、店としても新しいステージへ進んでいく。そのなかで菱田さんが描いているのは、自分自身がサロンを引っ張る存在になる未来だ。

「2、3年後は、Befneで菱田さんっていう存在が認められるように」

そして、

「藤木さん以上にBefneをもっと盛り上げていけるように」

誰かについていくだけではない。自分自身が名前を認められ、店を動かしていく存在になる。

その目標もまた、今はまだ小さな「種火」なのかもしれない。

悔しさもまた、次へ進むための火になる

今回の三都杯を終え、菱田さんのなかに残ったのは「やりきった」という満足感ではなかった。
集中が途切れた瞬間。思い描いていたテンポとのズレ。

ステージで出し切れなかった感覚。

そして、

「もっとできた」という悔しさ。

けれど、その悔しさによって、自分に足りないものも見えてきた。

今回の作品テーマは「種火」。

夢を追って日本へ来た3人のモデル。

自分自身のなかにある反骨心。

美容師としてもっと上手くなりたいという思い。

そして、いつかBefneを引っ張る存在になりたいという目標。

まだ完成していないからこそ、先がある。今回感じた悔しささえも、次の作品、次の挑戦へつながっていく。

小さな火を絶やさず、少しずつ大きくしていく。都杯のステージで菱田宏哉さんが灯した「種火」は、ここからまた、新しいデザインへとつながっていく。